
極めて優しい音のなる防犯ブザー『哀愁の旋律』
護衛の正攻法を疑う

制作背景
「役に立たない機械」という課題に対し、防犯ブザーの従来の「役に立つ」を捻じ曲げて応える。
制作意図・目的
一般に、わざわざ作られたものに対しては有用性を期待してしまうと考えました。そこを絶妙に裏切ってくる機械を作り、予想と違うフィードバックを返すことで、新たな可能性を見出すことを目的とします。
制作プロセス
1.「役に立たない」の議論・企画・先行事例調査
まずはじめに、「役に立たない」の解釈やイメージについて議論し、制作物のアイデアを出しあいました。引き続きムナーリの機械のスケッチを観察し、「役に立たない機械」の考察を続けました。モチーフの防犯ブザーは、アイデアを複数出していく中で登場し、以下のような点が決め手となりました。
- もともと絶妙に頼りない
- ブザー音がオルゴールだったら新たなストーリーが生まれそう
そこで「役に立たない機械」を「製品に期待される有用性を裏切る」「予想と違うフィードバックが返ってくる」ことに焦点を当てて捉え、この先行事例をリサーチしました。
2.仕様・実装目標の策定
制作にあたり、「既存の物にナンセンスを加えるなら、それをイメージできる最低限の仕様は満たす」という条件を定めました。先の考察をもとに仕様を検討し、次の優先度で実装目標を立てました。
- 栓を抜くことをトリガーに作動する
- 電池で給電する
- 防犯ブサーらしい形・大きさに仕込みきる(機構を既存の型に収める)
- 栓が抜かれている間は半永久的に鳴らし続け、挿したら止まる
- 理想の音量と音質を再現する
- 付属の L E D を 光らせる
3.プロトタイピング・実装
既製品の防犯ブザーを分解、改造して製作していきました。
予算やサイズ上、いわゆるオルゴールの機構を組み込むのは厳しいので、楽曲データを再生しスピーカーから出力することにしました。対して、本来の防犯ブザーは、圧電ブザーを用いて音を電気的に発生させているので、音の出力機構が根本的に異なります。つまり、コンパクトな圧電ブザーを、楽曲データを再生する機構+スピーカー に置き換えねばならず、サイズがネックとなりました。
また、既製品のボタン電池では電流不足で、音がうまく流れないトラブルが続きました。試行の末、リチウムイオンポリマー電池を使用するに至りました。
4.PV制作・論文執筆・プレゼン
制作内容をショートペーパーにまとめました。また、PVをTVショッピング風に制作し、授業内の成果物発表会で上映しました。
成果
危機を周知するという本来の役割を失ってはいるものの、以下のような点で、逆説的に微妙に役に立つかもしれない、新たなストーリーが想像されました。
- 予想と違うフィードバックにより加害者側の動揺させる
- 被害者の心を癒し、精神的苦痛を和らげる
展望
この作品をオルゴール再生機として見ると、従来とは異なるインターフェイスとして捉えられます。この他にも、ある製品のスイッチの機構を別の製品と取り替えたときに、新たな発見が得られるか試してみたいです。